第35回地中海学会大会は,6月18,19日に日本女子大学で開催されます。本学は日本女子大学校として,1901年に目白台の地に創立されました。110周年を迎える節目の年に大会開催校に選ばれたことは本学としても大変喜ばしいことです。文学部史学科との共催も実現し,大会準備・運営を円滑に進めるための体制も整いました。
大会の主会場となる「成瀬記念講堂」は,1906年の落成以来,関東大震災を経て今日まで開学時の面影を伝えており,本学に現存する校舎としては最も古い建物です。当初,「豊明図書館兼講堂」として建設されたこの建物は,薄暗い洋風の木骨トラスの内部空間にステンドグラスを透して射し込む光が相俟って,訪れる者にあたかもキリスト教会の聖堂のような印象を与えます。これは,本学創立者の成瀬仁蔵が熱心なキリスト教徒であり,開学以前に牧師として留学のために渡米していることとも無縁ではないのかもしれません。かつては,聖堂で言う側廊の2階に設けられた図書館部分が身廊である講堂部分を取り囲む独特の構成の建物だったようですが,関東大震災に際してレンガ造の外壁は激しく崩壊したため(ステンドグラスは奇跡的に残りました),外壁を板張りとして修復し,建物は「講堂」として再出発することになりました。開学以来,本学の象徴的モニュメントであり続けた講堂は,1961年に創立60周年記念事業として現在見る姿に修築され,名称も「成瀬記念講堂」と改められました。1974年には文京区の有形文化財にも指定され,学内だけでなく地域の文化遺産として愛されています。
18日(土)は,北村暁夫氏(本学史学科長)の開会宣言・挨拶の後,西山力也氏(本学名誉教授)による記念講演が行われます。ドイツ文学,特にゲーテをご専門とされる西山氏は,今年3月に定年退職されるまで,文学部長の要職を2期に渡って務められました。講演では「Kennst du das Land, wo die Zitronen blühn」(筆者註:『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の一節。わが国では歌劇『ミニョン』中の訳詞「君よ知るや南の国」で有名)のタイトルで,ゲーテの憧れたイタリアと地中海についてお話しいただきます。
続く地中海トーキングは,開催校が女子大学であることから,テーマは早々に「地中海の女」と決まりました。パネリストに古代ギリシア史の桜井万里子氏(東 |
京大学名誉教授),文化人類学の鷹木恵子氏(桜美林大学),スペイン文学の瀧本佳容子氏(慶應義塾大学),イタリア文学の村松真理子氏(東京大学)の女性の先生方をお迎えし,紅一点ならぬ緑一点の木島俊介氏(美術評論家)が司会を務められます。その後は,地中海学会賞・地中海学会ヘレンド賞の授賞式,総会と続き,懇親会となります。
懇親会場は目白通りを挟んだ桜楓2号館で行われます。この建物は本学の同窓会組織である社団法人日本女子大学教育文化振興桜楓会(通称桜楓会)によって運営されています。成瀬仁蔵は単なる同窓会を認めず,広く教育と文化の振興に資する事業を行うための組織としました。1920年には法人格を取得し,女性ジャーナルの先駆けとなった週刊紙『家庭週報』の編集と発行や日本で最初の職業婦人のための近代的桜楓会アパートメントハウスの建設など,活発な社会活動を展開してきました。懇親会場の4階ホールをはじめとして,生涯学習の実践の場として日頃から様々な文化講座などが催されています。
翌19日(日)午前は5名の研究発表が予定されています。昼食を挟み,午後は例年通りのシンポジウムですが,トーキングに比べて,テーマの設定が難航しました。大会準備委員の中で様々な案が検討され,その迷走ぶりを反映したかのように,最終的には「さまよえる地中海」の題のもと,地中海世界を舞台としたヒト・モノ・情報(技術)の移動について議論することになりました。パネリストには,西洋建築史の石川清氏(愛知産業大学),イタリア文学の武谷なおみ氏(大阪芸術大学),フランス文学の畑浩一郎氏(聖心女子大学),オスマン帝国史の堀井優氏(同志社大学),西洋美術史の三浦篤氏(東京大学)の5名をお迎えし,都市史・建築史の陣内秀信氏(法政大学)に司会をお願いしました。
女子大学での大会開催は6度目のことですが,先の東日本大震災では同じく女子大学開催校の宮城学院女子大学や前年度開催校の東北大学も甚大な被害を受けました。ご自身や周りの方々が被災された会員諸氏もいらっしゃることと存じます。大会準備委員一同,衷心よりお見舞いを申し上げると共に,目白台に集められた地中海の清明な光が被災地に希望の灯火をともし,復興に向けた一助とならんことを願ってやみません。
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